口紅

イヴサンローランの公式サイトで、リップを2本買えばもう1本おまけをつけるフェアをやっていた。

マスク生活でリップ需要が落ち込んでいるため、苦肉の策をとったのだろう。

お昼によくCMが流れる健康食品の売り方を彷彿とさせる。

化粧品業界の苦労が透けて見えるお知らせに、複雑な思いでフェア参加コードをコピーする。

私が初めてのボーナスを貰って買ったのがイヴサンローランのリップだった。デパコスという言葉すら覚えたての洒落っ気のない新社会人が背伸びをして買ったコーラルピンクのリップ。甘い果物の香りが唇の上で香るたび、店員との会話がうまく続かずぎこちないやりとりをした気まずさと恥ずかしさを思い出す。

化粧のいろははわからないけど、ただデパコスを持っているという見栄を張りたくてのこのこカウンターに座った自分。似合う色味も欲しい質感も答えられない客に困り果てた店員。似合っていますよ、社交辞令のあとに続く愛想笑い。地獄の時間である。

だけど初めて人から選んでもらった色を塗ってもらうのは楽しくて、リップラインを綺麗に縁取って塗られたピンクの唇は自分ながらに可愛いと感動した。

コロナ禍ではリップはおろかファンデーションも塗らない生活が続く。これからも続く新しい生活様式のせいで数多のデパコスの在庫が叩き売りされてしまうのかと思うと少し寂しい。

応援の意味も込めて買おうかな。

（よく考えたら3本1万円は安くはないと気付いたが、イヴサンローランなので安い）

コロナとかマスク生活とか無縁の生活をしたい。

でも会社に派手色リップを塗ってマスクで隠すのは、それはそれで楽しかったりする。